会社等の法人の破産を弁護士に相談する前や依頼後に、注意しなければいけない事項は多いです。
不安になる点があると思いますので、法人破産や代表者個人の破産で注意すべき事項を説明いたします。
このページの目次
1. 法人破産での注意事項
借入、返済禁止
弁護士への破産依頼後は、借入、返済、安価な財産売却はできなくなります。
- 破綻後の借入
詐欺的行為になってしまいます。闇金やファクタリングも含めてやめましょう。 - 一部の債権者だけに弁済
偏波弁済として否認の対象になります。 - 安価な財産売却
詐害行為として否認の対象になります。
親族や関係者への返済は、厳しく裁判所からチェックされます。
不適正な時価での財産処分禁止
破産直前の会社財産の売却(事業譲渡含む)は、破産管財人から厳しくチェックをされます。やむなく売却をする場合には、時価を下回らないように注意して下さい。(査定書など時価の算定資料を残してください。)
できるだけ、法人破産を依頼する弁護士と協働しながら進めましょう。
親族や関係者への財産処分は、特に厳しく裁判所からチェックされます。
銀行の預金について
弁護士依頼直後、弁護士は金融機関などの債権者に受任通知を発送します。受任通知が届くと、預貯金口座に残高がある場合には、引落、相殺がされてしまう可能性があります。
事前に預金の引き出しをして現金で管理してください。今後、売掛金等の入金予定がある場合には弁護士に相談してください。
督促への対応
弁護士依頼後に債権者から連絡が来る場合には、弁護士に全て任せているので弁護士に連絡するように伝えてください。電話等の督促には出ないでも結構です。
弁護士からの受任通知が届くと、ほとんどの債権者からの督促はとまります。
保証人や連帯債務者への請求
法人債務の返済を停止すると、(連帯)保証人や連帯債務者がいる場合には、その方に請求が行きます。連帯保証人や連帯債務者の債務をどうするかは、弁護士と相談しましょう。
場合によっては、その(連帯)保証人や連帯債務者も破産することがあります。
抵当権等の担保権の実行
抵当権や所有権留保などの担保権を設定している場合には、担保権の実行(強制競売や引き揚げ)がなされます。
労働契約、社会保険の手続
労働契約、社会保険等の手続処理については、弁護士と相談しながら進めていきます。経営者の一存で、一部の従業員だけに給与を支払う等はやめましょう。
税務申告をするかは、弁護士と相談して決めます。
必要書類
法人破産では、以下の書類が必要になります。必要書類がないと破産の申し立てができなくなったり申立までに時間がかかったりしてしまいます。
場合によっては破産の申し立てができなくなってしまうことがあります。必要書類の廃棄は絶対にしないようにしましょう。
- 債権者の会社名・住所がわかる書類
- 税務申告書(決算書(貸借対照表・損益計算書)含む)
- 残存する「資産」が分かる書類
・預貯金通帳・取引履歴明細
・クレジットカード(会社名義)
・車検証、自動車保険証(車がある場合)
・保険証書(自動車保険含む)、解約返戻金計算書
・最終決算書に記載のある資産についての処分が分かる書類又はメモ
・特に減価償却資産となっている自動車、機械等 - 従業員の住所、氏名、退職日、未払金がわかる書類
- 今後の入金予定日・入金額
- 事務所、倉庫、置き場、工場等の外観、内観、残置物が分かる写真
- 鍵(事務所・工場・自動車など)
- 代表印・銀行印・社判・印鑑証明書・印鑑カード
- 定款
- 債務に関する書類
- 残存する「債権」について、債務者、債権額、契約日等が分かる書類
売掛(受注)契約書、貸付証書、請求書、債権者一覧表、メモ… - その他残存する契約に関する契約書
- 直近3年間の月次の売上、原価、経費が分かる書類
月次表、総勘定元帳、仕訳帳など - 社会保険関係書類
- 就業規則、賃金規定、退職金規定
- 給与台帳・従業員台帳(名簿)
- 会社の事業内容、会社の沿革が分かる書類
パンフレットなどでも可
※その他の資料も裁判所や破産管財人の指示により必要になる場合があります。
郵便物の転送
破産の申立をすると、会社への郵便物が全て破産管財人に転送されます。この郵便物の転送で、弁護士に伝えていない財産や債務が発覚することがありますので、しっかりと弁護士に伝えましょう。
2. 代表者個人の破産での注意事項
借入、返済の禁止
破産を決めた後は、借入や返済はできません。親族、友人からの借入、返済も禁止です。
破産を決めた後は、クレジットカードも利用できません。(クレジットカード付帯のETCカードも含む)、ネットショッピング(アマゾンなど)でのクレジット払い登録がある場合にはすべて解除(切替)手続をしてください。
自らの財産から家族を含む自分名義以外のクレジットカードなどの返済も一切できません。家族のクレジットカードの返済は、その方の収入から行ってください。
通信料金
通信料金(携帯料金、Wifi料金など)は、そのまま支払うことができますが、複数の携帯電話は保有を継続できない場合があります。
信用取引の制限
受任通知発送後は、信用取引(クレジット契約、分割・割賦払契約、住宅ローン契約、自動車ローン等)が5年~10年程度できなくなります。
保証人や債務者への請求
返済を停止すると、(連帯)保証人や連帯債務者がいる場合には、その方に請求が行きます。また、抵当権や所有権留保などの担保権を設定している場合には、担保権の実行(強制競売や引き揚げ)がなされます。
贈与、安価な財産処分の禁止
弁護士依頼後は贈与、時価より低額な売却はできません。弁護士依頼前でも2年程度は裁判所にチェックされます。やむなく車やバイクを売却する場合には、査定をとり時価以上での売却である証拠を残す必要があります。
必要書類
- 債権者の名称(会社名)・住所がわかるもの
クレジットカード、キャッシングカード、利用明細、督促状など - 身分証明書(写真付き)
- 委任状
- 住民票
- 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 過去2年分の預貯金通帳(ご本人名義の全ての口座)または取引履歴
- 課税証明書又は非課税証明書(直近2年分)
- 源泉徴収票(直近2年分)
- 給与明細書
- 退職金見込み額が分かる資料
退職金がない場合は、ないことが記載されている書類が必要になります。 - 公的手当の受給が分かる書類(年金・児童手当・失業保険等)
- 賃貸借契約書(賃貸住居の場合)
- 固定資産税納税通知書・明細書(自己所有又は親族所有不動産に居住している場合)
- 保険証券・保険証書(保険に加入している場合)
生命保険、自動車保険、火災保険等全ての保険で必要になります。 - 保険等の解約返戻金の有無・金額等が分かる資料
ネットでログインして取得したり、保険会社に連絡を入れたりして取得してください。 - 株式、暗号資産の現在残高、過去2年間の取引が分かる書類
- 車検証の写し、または登録事項証明書(自動車・バイク保有の場合)
- 電気・ガス・水道料金、電話料金、家賃の領収書・明細書
支払名義・支払方法が分かる書類が必要になります。通信費は内訳がわかる書類が必要です。 - 裁判や差押がある場合には、その書類
- 確定申告書2年分
個人事業主の場合(未申告の場合はご相談下さい) - 時価が20万円以上の財産の処分・取得(2年以内)に関する書類
必要になる場合があります。
※必要書類は、複数回・継続的に弁護士に提出する必要があります。
※通帳の入出金を確認していく中で、改めて必要になる書類があります。
浪費、ギャンブル、投資の禁止
浪費、ギャンブル、投資は絶対にしないようにしてください。
銀行口座について
通帳は弁護士が預かります。通帳がない場合は、取引明細や取引履歴などを複数回提出する必要があります。
口座を持っている銀行に借り入れがある場合
弁護士が受任通知を出すと、その時点の銀行の預貯金残高が相殺されます。また、その銀行預金が一定期間(1ヶ月~破産手続き終了まで)凍結(相殺)され使えなくなることがあります。事前に預金の引き出しをしましょう。
給与入金がある口座の場合には、給与振込口座の変更を検討しましょう。
返済方法が銀行引落の場合
弁護士への依頼後は返済は禁止ですので、返済用の口座には入金しないようにしてください。給与入金がある口座の場合には、給与振り込み口座の変更を検討しましょう。
水道光熱費などの引落口座と返済口座が同じ場合
水道光熱費などの引落用口座と返済口座が同じ場合には、受任通知から1か月程度は入金はできなくなります。引き落とされて返済となってしまうからです。一時的に、水道光熱費などの支払は遅らせ、後日コンビニ払いや振込支払いなどで支払うことになります。
遠方の銀行口座を持っている場合
破産手続き中は、全ての口座の複数回の通帳記入が必要になります。遠方の銀行や取引のない口座については、解約することをお勧めします。解約する場合には、必ず解約前2年間の通帳又は取引明細を取得しておきましょう。
管財事件について
法人破産と代表者個人の破産は、原則、同時申立となります。代表者個人の破産は、管財事件となります。
郵便物の転送
申立後免責決定が出るまで、郵便物が破産管財人に転送されます。郵便物を管財人から定期的に受け取るという形になります。
申立後の提出書類
申立後も3か月程度破産管財人の監督下になり、管財人面談があり、家計簿、通帳、領収書の提出や反省文の提出を求められることがあります。
公告・裁判
破産開始決定や免責決定があると、官報に掲載され公告されます。いわゆる情報屋に情報収集がなされることがあります。
裁判提起への対応
支払停止や弁護士介入から破産申立までに6か月以上を要する場合には、その間に裁判を提起してくる債権者があります。基本的には、裁判への対応はせず、判決をとられたとしてもそれを債務額として破産で計上してするだけということになります。
裁判書類は自宅に届きますので、家族に内緒にしている方は発覚する恐れがあります。
判決をとられた後もさらに申立までに期間を要すると、差押等のリスクが生じます。
弁護士との解約事由
以下のような事由が発生すると、依頼している弁護士に辞任される可能性がありますので、注意しましょう。
- 電話やメールを長期間無視して連絡を取らなかった
- 指示された書類を長期間提出しなかった
- 弁護士費用の分割金を滞納してしまった
- 弁護士依頼後に高額なものを購入、処分、贈与してしまった
- 弁護士に内緒で借入(友人・親族含む)や返済(友人・親族含む)をしてしまった
- 必要書類を破棄してしまった
- 弁護士依頼後にギャンブル、投資、浪費をしてしまった
まとめ
会社が破綻して会社や代表者が破産をするとなった場合には、注意しなければいけない事項が多数あります。特に一部の債権者への返済、借入、安価な財産処分は絶対にしないようにしましょう。破産自体ができなくなる可能性がありますし、最悪、刑事事件になってしまう可能性があります。
まずは、法人破産に精通した弁護士に相談して、どのような行為はしていいのか、してはいけないのか、しっかりと説明を受け理解しましょう。
当事務所のサポート
当事務所は、破産・再生に特化した法律事務所です。特に、法人破産では千葉県有数の申立件数を有しています。破産手続きは、破産申立前から注意なければいけない事項が多数ありますので、破産に精通した弁護士に相談しながら、進めましょう。
法人の経営破綻が近づいてきてしまったら、安易に財産処分などはせず、法人破産の経験豊富な当事務所にご相談ください。最善の選択肢をご提案できるはずです。