企業が厳しい経営状況に直面した際、倒産を防ぐためにどのような手を打つかは、経営者にとって極めて重要な課題です。
早期に債務整理を行うことで、倒産を回避し、事業の再建や経営の健全化を目指します。ここでは、早期に債務整理を行うことの重要性やそのメリットについて解説します。
このページの目次
1. 債務整理を早期に行う理由
経営が悪化し始めた時点で適切な対応をとらないと、資金繰りはさらに厳しくなり、企業は債務不履行(デフォルト)や破産のリスクに直面します。
早期に債務整理を行うことで、経営の立て直しの可能性が高くなり、倒産を防ぐための選択肢をより多く選択できるようになります。
1-1. 資金繰りの改善
債務整理を早期に行うことで、債権者との返済条件の見直し、資金繰りの改善がしやすくなります。返済期間の延長や利息の減免を交渉することで、当面のキャッシュフローに余裕を持たせ、事業運営を継続できるようになります。
この時点では、弁護士に依頼しないでも、直接金融機関と交渉をして変更合意できることがあります。
1-2. 経営再建の選択肢が広がる
早めに行動を起こすことで、事業再生、選択と集中、経営合理化・効率化、スポンサー探し、M&A、私的整理など、裁判外の柔軟な手続きも選択肢に入れられます。事業の収益性が下がりきった状態では回復は極めて難しいです。
事業収益がある段階で、より適切な経営再建の選択肢を検討しましょう。時間が経つほど選択肢が限られ、掛けられる費用も少なくなってきます。
2. 早期債務整理のメリット
早期の債務整理には、次のような重要なメリットがあります。
2-1. 信用の維持
早期に債務整理を行うことで、取引先や金融機関に対する信用をある程度維持することができます。
特に、取引先との信頼関係が重要な業種では、適切なタイミングで債務整理を行い、経営再建に向けた努力を示すことで、今後の取引が継続される可能性が高まります。
2-2. 債権者との柔軟な交渉が可能
債務問題が深刻化する前に整理を開始することで、債権者との交渉が柔軟に進みやすくなります。
債権者も、経営再建のために合理的な返済プランを受け入れることが多いため、企業にとって有利な条件を引き出すチャンスが生まれます。
2-3. 事業の立て直しに専念できる
資金繰りの不安が解消されることで、経営者は本業の再建に集中することができます。売上の回復やコスト削減、新規事業の展開など、経営改善のための戦略を実行に移す余裕が生まれます。
3. 早期債務整理の具体的な手段
企業の債務問題は、早期に適切な整理手続きを行うことで、経営の再建が可能になります。
以下は、早期債務整理の主な手段です。
3-1. 私的整理
私的整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉し、返済条件を変更する方法です。
この手続きは比較的迅速かつ柔軟に行うことができるため、経営再建を目指す企業にとって効果的です。返済期間の延長や利息の減免などを取り決めることで、キャッシュフローを改善します。
深刻な段階に至っていない場合には、税理士に相談して自ら行ってもいいでしょう。
私的整理のメリット
- 手続きが公にされないため、会社のイメージが保たれる
- 債権者との話し合い次第で、柔軟な返済計画を作成できる
3-2. 事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)
事業再生ADRは、裁判所を通さない手続きであり、第三者機関の仲介を受けて債権者と交渉を行います。公的な管理が入ることで、より公平な調整が進むことが特徴です。
事業再生ADRのメリット
- 第三者が仲介に入ることにより債権者との合意が円滑に進むことが期待される
- 企業価値を活かした再建計画が実行できる
3-3. 民事再生
民事再生は、裁判所を介して債務の整理を行い、事業の再建を目指す方法です。基本的に企業の経営者はそのまま会社の指揮を執り、再建計画に基づいて事業を再構築します。
民事再生のメリット
- 法的な保護のもとで債務整理ができるため、強制執行を回避できる
- 経営者が再建計画を主導できる
- 大幅な債務減額が期待できる
4. 早期債務整理が遅れることによるリスク
債務整理が遅れると、会社は深刻な経済的困難に直面し、倒産リスクが大幅に高まります。また、以下のような問題が発生する可能性があります。
4-1. 強制執行や差し押さえ
債務不履行が続くと、債権者は強制的に資産を差し押さえる手続きに踏み切ることがあります。これにより、事業の運営に必要な資産が失われ、会社の存続が難しくなります。
4-2. 取引先からの信頼喪失
支払いの遅延が続くと、取引先からの信用が失われ、取引条件の悪化や契約の打ち切りが発生することがあります。これにより、事業活動の継続が困難になり、連鎖的に経営が悪化します。
4-3. 再建の選択肢が限られる
資金が枯渇し、経営の余裕がなくなると、再建計画の実現が難しくなります。結果として、最終的な選択肢として破産手続きに追い込まれるリスクが高まります。さらに、破産費用がなくなった場合には、危機的状況といえるでしょう。
5. 早期債務整理に向けた実務的なステップ
債務整理を早期に開始するためには、以下のような具体的なステップを踏むことが推奨されます。
5-1. 早期の現状分析
財務状況の把握
経営陣は財務諸表を確認し、負債の総額、支払予定、キャッシュフローの現状を詳細に把握します。税理士などの協力を得ることで、より正確な分析が可能です。

5-2. 専門家への相談と経営健全化の実行
弁護士や経営コンサルタントへの相談
債務整理の方法を検討するために、専門家に早めに相談することが大切です。
事業再生に精通した専門家に適切なアドバイスを求めましょう。取り得る対策が決まった場合には、経営健全化の対策を実行しましょう。

5-3. 債権者との任意整理交渉
誠実な対応
債権者に対して誠実に対応し、会社の再建計画を説明することで、信頼関係を築きながら有利な条件を引き出すことができます。

5-4. 法的整理の検討
法的整理
債権者との任意の債務整理がまとまらない場合は、次のステップとして、法的整理の準備として弁護士に相談しておきましょう。
破産前より、法令上の規制(してはいけないこと等)があるため、どのような心構えが必要かなど、予め聞いておく必要があるからです。
まとめ
早期の債務整理は、再生への選択肢を広げ、再建への道を開くために重要です。経営者は、経営が悪化し始めた段階で積極的に行動し、財務改善のための具体的な手続きに着手することが求められます。
この段階では、税理士などの専門家のサポートを受けながら、最善の選択を行い、経営の立て直しに努めましょう。その段階で再建が難しくなってきた場合には、速やかに弁護士に相談しましょう。
当事務所のサポート
当事務所は、破産・再生に特化した法律事務所です。破産・再生は、法的な手続きであり、できればその前の段階で、事業再生をしたいものです。もっとも、事業不振は、突然やってきて負のループが続きます。中小企業において、そこまで事前準備できないというところが本音でしょう。
支払不能の状況が近づいてきた場合には、なるべく早めに税理士、弁護士に相談しましょう。破産や再生費用が支払えなくなった段階では、打つ手がなくなってしまいます。
早期に経営再建、債務整理を行い、うまくいかなかった場合は、再生・破産に精通している当事務所にご相談ください。