不動産相続に関する手続きとトラブル防止策

不動産は相続財産の中でも特に重要な資産であり、登記や税金にも関わってきますので、その手続きは慎重に行う必要があります。不動産相続においては、名義変更や評価額の算定が必要なだけでなく、相続人間のトラブルが発生しやすい点にも注意が必要です。

ここでは、不動産相続の手続きの流れと、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策を説明します。

1. 不動産相続の手続き

不動産相続の手続きは、相続開始後に必要な一連の流れを正しく理解して進めることが重要です。

1-1. 不動産の調査と確認

権利関係の確認

まず、被相続人が所有していた不動産の権利関係を確認します。具体的には、固定資産税納税通知書、不動産登記事項証明書(登記簿謄本)、名寄せを取得して、不動産の所在地、面積、所有者、抵当権を調べます。

財産の評価

不動産の評価額を調査します。主に、固定資産税評価額、路線価、不動産業者作成の査定書、不動産鑑定士作成の鑑定書などがあります。どの評価方法を採用するか検討します。

1-2. 遺産分割協議

協議を開始する

不動産の分割方法を含め、相続人全員で話し合い、遺産分割協議を行います。全員の合意が得られれば、遺産分割協議書を作成します。不動産を誰が取得するのか、共有にするのか、売却するのかなどを具体的に決めます。

1-3. 名義変更(所有権移転登記)の手続き

法務局での登記申請

不動産の所有者名義を被相続人から相続人へ変更するため、法務局に所有権移転登記の申請を行います。申請には、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本、登記申請書などが必要です。

登記費用

登録免許税(不動産評価額の0.4%)や、司法書士に依頼する場合の報酬が発生します。

1-4. 相続税の申告と納税

相続税の申告

相続税の課税対象となる場合は、相続開始から10か月以内に税務署に申告・納税します。預金が多額な場合や不動産の評価額が高い場合、相続税が発生することが多いため、税理士に相談して正確な申告を行うことが推奨されます。

2. 不動産相続におけるトラブル防止策

不動産相続は分割が難しいため、相続人間でトラブルになることがあります。以下の対策を講じることで、争いを防ぐことができます。

2-1. 共有名義を避ける

共有名義のリスク

不動産を複数の相続人で共有名義にすると、売却や管理の意思決定が難しくなり、将来的にトラブルが発生するリスクが高まります。

共有名義にする方法は、分割問題の先送りであることを理解して、最終手段であることを自覚します。共有にしても、共有に関する収益、負担をどのようにするかなど問題が多いです。

特定の相続人が取得する

不動産を特定の相続人が取得し、他の相続人には代償金を支払う「代償分割」を検討すると良いでしょう。代償資金がない場合には、共同して売却する換価分割も検討します。

2-2. 公正証書遺言の活用

遺言書の作成

被相続人が生前に具体的な公正証書遺言を作成しておくことで、遺産分割協議が不要になります。検認も不要なので、相続人は公正証書遺言を利用して、登記の移転や預貯金の解約をするだけでいいということになります。

2-3. 不動産の評価に関する共通理解

不動産の評価方法を統一する

相続人が複数いる場合、評価方法が異なると合意ができません。その事案でどのような評価方法を採用することが適切かという問題は、意外に難しい問題です。

前提として、相続税評価と遺産分割協議上の時価額は、異なることが多々あるということを理解する必要があります。そのうえで、固定資産税評価額、路線価、査定書など、どの方法を採用するか合意形成を目指すことになりますが、遺産分割協議上は全員が納得すればどの方法を採用しても大丈夫です。

3. 不動産の分割方法の工夫

不動産相続でトラブルが起きやすい理由は、物理的に分けにくい資産であるためです。以下の分割方法を工夫することで解決が容易になる場合があります。

3-1. 換価分割

売却して現金で分ける

不動産を売却して現金化し、相続人間で分配する方法です。不動産の取得希望者がいない場合や不動産の代償分割で合意が得られないときに、利用します。

不動産の評価を厳格にする必要がなく公平性を担保しやすいですが、不動産の売却手続きを行う必要があるので、不動産売却に慣れていないと、不利益を被ったり売却が進まないことがあります。

3-2. 代償分割

特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に現金を支払う

この方法は、不動産を維持したい相続人がいる場合に効果的です。代償金の支払いを一度に行うのが難しい場合には、分割払いにしたり、不動産を担保に借り入れをして支払うなどとすることもあります。代償金を算定するためには適切に評価する必要があり、評価方法で合意できないと採用できません。

3-3. 現物分割

不動産を物理的に分割する

土地が広い場合、物理的に区分けして分けるものです。ただし、条件面で全く同一にすることはできませんし、近隣関係が生じますので、お勧めしない方法です。

4. 不動産相続に関連する法律と手続き

不動産相続には、登記や税務などの法的手続きが関わります。これらを適切に理解して手続きを進めることが必要です。

4-1. 登記の義務化と早めの手続き

相続登記の義務化

2024年4月から「相続登記の義務化」が施行され、相続登記を怠ると過料が科される可能性があります。そのため、相続が発生したら早めに登記手続きを行うことが必要です。

放置すると権利関係が複雑に

登記を放置すると、その間の共有物管理費用・収益の清算が面倒になりますし、新たに相続が発生すると相続人が増えて、合意形成が困難になります。放置することはやめましょう。

4-2. 相続税の特例

小規模宅地等の特例

相続税の負担を軽減するために、「小規模宅地等の特例」を利用できる場合があります。この特例を適用すると、自宅用地の評価額が最大80%減額されます。節税効果は非常に大きいです。申告期限内の申告が必要です。要件などは難しいこともあるので、専門家に助言を受けると安心です。

5. トラブル防止のための具体的な対策

相続人間で争いが起こることを防ぐために、事前に次のような準備をしておくとよいでしょう。

5-1. 定期的な家族会議

生前からの準備

生前から、誰がどの遺産を取得するか共通イメージができていると、紛争が生じにくいです。公正証書遺言にしておくと、それを利用して登記をすればいいだけなので、安心です。

5-2. 専門家の早期関与

弁護士、税理士、司法書士の活用

不動産相続は専門知識が必要な場面が多いため、早い段階で専門家に相談することが効果的です。特に、相続税は10か月という期限があり遺産分割協議への影響もあるため、遺産分割協議と並行して準備をする必要があります。

早期に売却して優遇処置が利用できなかったなども散見されますので、注意しましょう。

5-3. 家族信託の利用

財産管理をスムーズにする

家族信託は、被相続人が生前に財産管理を信頼できる家族に委託する制度です。歴史が浅い制度で不明確な点もありますが、遺言の代用として期待できる側面もあります。専門家に相談してみましょう。

まとめ

不動産相続は、相続財産の中でも特に配慮事項が多い分野です。トラブルを防ぐためには、遺産分割協議と並行して見込まれる税額などを把握する必要があります。共有のリスクを理解し、できるだけシンプルな分割を行うことが望ましいです。

代償分割で代償金額が定まらない場合や換価分割でも不動産売却をどのように行っていくのかが分からないなど、不動産の分割は難しい問題があります。

そのような手続きに詳しくないのに強引に進めると、思いがけない不利益が後日発生することもあります。専門家に依頼することで、相続全般を滞りなく進めることが期待できます。

当事務所のサポート

当事務所では、不動産相続の手続き全般に関するサポートを行っております。遺産分割協議、名義変更登記手続き、相続税の申告、代償分割の代償金の算定、換価分割などの売却手続きなど、全て当事務所で完結できる点が強みです。

不動産相続で不安や疑問がある方は、お気軽にご相談ください。

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