生前贈与は、相続財産を減らして相続税を節税したり、家族への経済的な支援をするための有効な手段です。しかし、贈与の仕方によっては、相続人間でトラブルが生じる原因にもなりかねません。贈与に伴うトラブルを防ぐためには、事前に十分な準備と配慮が必要です。
このページの目次
1. 生前贈与におけるトラブルの原因
生前贈与が相続トラブルを引き起こす主な原因は、贈与の内容が相続人間で不公平に感じられたり、特別受益として持ち戻しが必要とされる場合に意見が分かれることです。以下のような状況が、特にトラブルの原因となります。
1-1. 贈与の不公平感
一部の相続人にだけ多額の贈与があった場合
たとえば、子の中で特定の一人にのみ多額の住宅資金を提供した場合、他の相続人が不公平だと感じることがあります。
贈与の意図や内容が不明確
贈与の理由や背景が他の相続人に理解されていないと、不満が生じることがあります。
1-2. 特別受益の問題
特別受益として持ち戻しが求められる
特別受益とは、生前に被相続人から特定の相続人が多額の贈与を受けていた場合、その贈与分を相続財産に含めて分配する制度です。これにより、相続人間で財産を公平に分配することを目的としていますが、この調整がスムーズに進まないことがあります。
1-3. 法律や税制の理解不足
贈与税や相続税の影響
生前贈与を行う際に贈与税が発生することがあります。また、相続開始時に特定の贈与が相続税の課税対象として持ち戻される場合もあります。これを理解していないと、税金の負担に関するトラブルが起こることがあります。
2. 生前贈与によるトラブルを防ぐ具体的な方法
生前贈与を行う際には、相続人間での不公平感や誤解を防ぐために、次のような対策を講じることを検討しましょう。
2-1. 贈与内容を明確にする
贈与契約書を作成する
生前贈与を行う際には、口頭で伝えるのではなく、贈与契約書を作成して内容を明確にしましょう。贈与の理由、金額、時期などを具体的に記載し、相続人全員が贈与の事実を理解できるようにすることが大切です。お金の動きだけでは、贈与なのか借用なのか、勝手に引き出したのかわからないからです。
証拠を残す
銀行の振込記録や領収書など、贈与が実際に行われた証拠を残しておくことで、後の相続手続きの関係証拠になります。
2-2. 特別受益の問題を解消する
事前に説明と合意を得る
特別受益として持ち戻しが発生しそうな場合は、事前に相続人全員に説明し、理解を得ることが重要です。たとえば、「長男に住宅購入資金を贈与したが、その分を相続時に考慮する」ということを話し合いで確認しておきます。
持ち戻し免除の意思表示
被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思を持っている場合は、その旨を遺言書に記載しておくと良いでしょう。これにより、相続人が遺産分割協議で争うリスクを軽減できます。
3. 遺言書の活用
生前贈与に関するトラブルを防ぐために、遺言書を作成することも効果的です。遺言書に生前贈与に関する事項を記載することで、相続人間での認識の違いをなくすことができます。
3-1. 遺言書に記載すべき内容
生前贈与の事実と理由
誰にどのような財産を生前贈与したか、その理由や背景を遺言書に明記します。たとえば、「長男に住宅資金を提供したが、これは特別受益として持ち戻す」という具体的な内容です。
持ち戻し免除の意思
もし、特別受益を持ち戻ししないようにしたい場合は、はっきりと「特別受益として持ち戻さない」との意思表示を記載します。
3-2. 公正証書遺言の利用
公証人のサポートを受ける
遺言書は公正証書遺言として作成することで、法的に有効で信頼性の高いものになります。公証人が関与するため、遺言の内容がしっかりと確認され、相続人間で争いが生じる可能性が低くなります。
4. 生前贈与の計画的な活用
生前贈与を有効に活用するためには、計画的に進めることが重要です。相続税対策として行う場合も、十分な準備と知識が必要です。
4-1. 暦年贈与の活用
年間110万円の非課税枠
毎年110万円までの贈与は非課税となります。この非課税枠を利用して、数年にわたって少しずつ贈与を行うことで、大きな贈与税の負担を避けつつ、相続財産を減らすことができます。
贈与の記録を残す
暦年贈与を利用する場合も、贈与の証拠をきちんと残しておくことで、相続時にトラブルが生じにくくなります。贈与、借用、勝手な引出が区別できるようにしておく必要があります。
4-2. 相続時精算課税制度の利用
特定の条件での非課税贈与
相続時精算課税制度を利用すると、一定金額までの贈与が非課税になります。ただし、相続時に贈与分を相続財産に加算して相続税を計算するため、専門家と相談して計画的に利用することが求められます。
贈与税の申告が必要
この制度を利用する場合は、贈与税の申告を行う必要があり、税理士などのサポートを受けることをおすすめします。
5. 家族間のコミュニケーションを重視する
5-1. 家族での情報共有
家族全員で情報共有
多額の生前贈与をしてもらう際は、他の家族とも情報共有を行い、贈与の理由や今後の財産の分け方について共通認識をもっておくことで、疑心暗鬼にならず、不要な調査をされることを防止できます。
贈与の公平性を話し合う
特定の相続人だけが大きな財産を受け取る場合は、その理由を他の相続人に説明し、公平を図る手段を検討します。全員が納得していれば、無理に公平にする必要はありません。
5-2. 被相続人の意思を尊重する
被相続人の考えを共有
生前贈与の背景には、被相続人の特定の希望や意図があることが多いため、その意思を相続人全員が尊重できるように、被相続人の希望や意思は元気なうちに相続人に伝えておきましょう。
6. 専門家のサポートを受ける
6-1. 弁護士や税理士の相談
法的なトラブル防止
生前贈与が原因で相続人間に争いが起こりそうな場合は、早めに弁護士に相談して法的アドバイスを受けておきましょう。贈与の内容や遺産分割について、まだ相続が発生していない段階で、中立的な立場からサポートしてもらうことで、トラブルを未然に防げます。
税務対策のアドバイス
生前贈与による税金の負担を最小限にするため、税理士に相談して最適な贈与方法を提案してもらうことも重要です。
まとめ
生前贈与は、相続税対策や遺産の公平な分割、相続人の遺産分割の手間を省ける、有効な手段です。しかし、不意打ち的にやったり、不透明な資金移動があると、かえって相続人間でのトラブルを招きます。また、税務調査を受ける可能性もあがってしまいます。
生前贈与をする場合には、内容を明確にして、借金なのか贈与なのか分かるように、証拠書面で残しておきましょう。心配な場合には、専門家のサポートを受けながら、法律や税制を理解して計画的に贈与を行うことが必要です。
当事務所のサポート
当事務所では、生前贈与に関する法的アドバイスや、遺言書の作成サポート、相続に関するトラブル防止のためのコンサルティングを行っています。贈与や相続についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。相続経験豊富な弁護士が、お力になります。