遺産分割協議は、相続人全員が同意すれば、基本的にどのような分け方でも問題ありません。しかし、遺産分割協議書の記載によって、思いがけない問題となることがあります。
ここでは、遺産分割協議書の締結にあたって、注意しければいけない点を解説いたします。
このページの目次
1. 対象遺産を明確に記載する
対象遺産を明確に記載しないと、金融機関の手続きや法務局での手続きが進まないことがあります。金融機関や法務局での手続きを想定して、遺産分割協議書を作成しましょう。
1-1. 不動産の記載
登記情報
遺産に不動産がある場合には、登記情報の内容をそのまま写した方が安心でしょう。地番ではなく住所を記載したり、場所は書いているが土地か建物か分からないものが散見されます。
私道
戸建てで共有私道などがある場合は、自宅が建っている土地だけでなく、私道部分の土地も、遺産分割協議書で帰属を決定しましょう。
自宅を取得した人が将来不動産を売却した時に、私道の所有権がないと、改めて相続に全員の遺産分割協議が必要になってしまうからです。
名寄帳などを取得して、全ての土地・建物を把握しましょう。
固定資産税や賃料の精算
相続発生後の固定資産税や賃料が発生している場合には、遺産分割協議書か合意書で、その精算金額、方法について明記しておきましょう。原則、遺産分割協議と一体として決めていない場合には、相続分に応じて精算が必要になってしまうからです。
相続発生後の賃料も取得する前提でその不動産を取得するのか、賃料は相続分で精算するのかによって、想定取得金額が変わり、所得税の申告にも影響があるからです。
1-2. 預貯金、株式など
明確な記載
遺産分割協議書で預貯金を決める時、各銀行の預貯金を各相続人で分割するのか、 全部の預貯金の合計額を相続人で分けるのか明確にしておきましょう。金融機関としては、自らの預貯金をそれぞれの相続人にわけるのか、相続人全員に包括的に帰属するかが分かりづらいからです。
具体的な記載
預貯金口座は具体的に記載しましょう。もっとも、最近では、判明している預貯金以外に、その銀行で投資信託などが見つかることがあります。その場合に、その投資信託も含めてその相続人に帰属させるかもわかるようにしておきましょう。
また、端数が生じることがありますので、端数の帰属を明確化しておくと、金融機関での手続きがスムーズです。
預貯金の変動
預貯金額は、死亡時点(相続発生時点)と解約時点では金額が異なることがよくあります。これは、銀行に死亡の連絡をしておらず生活費の引落がそのままされていたり、 利息がついたり、給与や年金が振り込まれたり、葬儀費用として引き出していたりといった事情によります。
預貯金を取得する場合には、相続時点と解約時点の金額を把握していないと、思いがけない不利益を被ることがあります。このような観点から、遺産分割協議書には、具体的な金額を記載しない方が手続き上スムーズです。
1-3. 債務や葬儀費用
住宅ローンや借金など
住宅ローンや借金などは、遺産分割協議書で合意しない限り、原則、相続分に応じて承継されます。もっとも、住宅ローンがついている住宅を取得した人が、その住宅ローンも承継すると考える方が一般的です。債務を特定の相続人に負担させる場合には、遺産分割協議書でその旨を明確にしておきましょう。
葬儀費用
葬儀費用を後から請求されることがあります。相続人間で葬儀費用の負担を決めた場合には、記載しておきましょう。
未判明債務
例えば、プラスの遺産を特定の相続人が全部取得した場合に、後から借金が判明して、何も取得していない相続人が相続分に応じて借金を負担するのは不公平です。未判明の遺産・債務が発見された場合に、誰が取得・負担するのか、予め決めておきましょう。
2. 相続税や譲渡所得税も考慮した遺産分割協議書
遺産分割協議書は、相続税の申告でも添付書類となっています。相続税の申告も見据えた遺産分割協議書を作成する必要があります。
2-1.相続税申告書との兼ね合い
全ての遺産の帰属の記載
相続税申告がある場合には、遺産分割協議書にはその全ての遺産、債務について記載する必要があります。相続税の申告書では、相続発生時点(死亡時点)で存在した遺産・債務について、その金額を計上する必要があります。
死亡時点と遺産分割協議時点の齟齬
遺産分割協議は、遺産分割協議時点の遺産額を念頭に、分割することが一般的です。遺産分割時点の金額を遺産分割協議書に書いてしまうと、相続税の申告書と矛盾が生じてしまいます。
相続時点と遺産分割協議時点の両方で矛盾のない有効な遺産分割協議書を作成する必要がありますので、預貯金額は記載しない方がいいでしょう。
小規模宅地等特例
相続税の節税効果が期待できる、小規模宅地等特例という制度があります。小規模宅地等特例が適用できる場合には、その人がその不動産を取得した方が相続税の節税になります。全体の相続税が減少し、他の取得しなかった相続人にも恩恵があります。
2-2. 譲渡所得税への配慮
譲渡所得税を見据える
遺産である不動産を特定の相続人が取得して売却する場合があります。例えば、Aさんが預金3,000万円を取得して、Bさんが3,000万円の不動産を取得した場合です。この場合、一見すると公平なように思われます。
しかし、その不動産をすぐに売却するとなると話が変わってきます。不動産を売却して利益がでた場合には、翌年には、約20%の譲渡所得税と住民税がかかり、不公平になるからです。
不動産売却をする場合には、譲渡所得税や住民税がどの程度かかるかも見込んで、遺産分割協議書を締結しましょう。
不動産売却に係る費用の分担
不動産を売却するには、仲介手数料、測量費、登記費用等の売却諸費用がかかります。代償分割、換価分割をする場合には、売却諸費用をだれがどのように負担するかも、明記しておきましょう。
2-3. 税務申告費用の負担
税務申告費用
遺産を公平に分割したとしても、特定の人が譲渡所得税の申告費用を負担することになれば、その分不公平になってしまいます。特に問題となるのは、特定の人が不動産を相続する形にして、代償金という形で他の相続人に支払う場合です。
この場合、不動産を取得して売却した人だけが、譲渡所得税の申告費用を負担することになります。このあたりも細かく想定しておくと、思いがけない負担を回避できます。
3. 遺産分割協議書の添付書類など
遺産分割協議書に署名、押印しただけでは、法務局の登記や金融機関での手続きはできません。以下の点に注意しましょう。
3-1. 実印押印、印鑑証明書の添付
実印の押印
遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印する必要があります。実印と思って押印したが、印鑑証明書と違うことが後日判明することがあります。遺産分割協議書締結時点で、全員分の印鑑証明書を添付し、実印と印鑑証明書が同じか確認しておきましょう。
3-2. 契印(割印)
遺産分割協議書が複数ページになるときは契印
遺産分割協議書が複数ページになるときは、必ず、相続人全員がページ毎に実印で契印をしましょう。A4で2ページになる場合には、A3で作成することも検討しましょう。
4. 遺産分割協議書の部数、保管
遺産分割協議書は何部作製した方が良いのでしょうか。以下で解説していきます。
4-1. 遺産分割協議書の部数
相続人数分作成する
遺産分割協議書は、相続人の人数分作成し、各相続人が遺産分割協議書1通と全相続人の印鑑証明書を保管することが望ましいです。
これにより、他の相続人がその後に非協力的になっても、その遺産分割協議書と印鑑証明書で、相続手続きを進められるからです。
4-2. 保管
最低7年程度は保管
未判明の遺産が出てきた場合、手続き未了の遺産があった場合、税務署の調査があった場合等のために、遺産分割協議書を最低7年程度保管しておくことをお勧めします。
5. 専門家のアドバイスを受ける
遺産分割協議書は、簡単なようにみえて、様々なリスクを秘めた書面です。専門家に相談することも検討しましょう。
弁護士による法的サポート
リスクを回避した遺産分割協議書
弁護士は、問題となる遺産分割協議書を数多くみてきています。一方で、一般の方が遺産分割協議書を作成することは、一生に一度か二度あることだと思われます。
特に、相続税申告が必要な場合、遺産が複雑な場合、遺産分割協議書などの書面作成に不慣れな場合には、遺産分割協議書作成の専門家である弁護士に相談してみましょう。思いがけないリスクを説明されることがあると思います。
まとめ
遺産分割協議書の作成自体は、さほど難しいものではありません。もっとも、様々なリスクを抱えた書面です。
特に、相続税申告がある場合、遺産が多額の場合、不動産の売却がある場合、敵対的な相続人がいる場合には、慎重に遺産分割協議の作成、締結をする必要があります。
不安な場合は、遺産分割協議に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所のサポート
当事務所では、相続、遺産分割全般に関する法的アドバイスや示談交渉代理を行っています。
特に、相続税申告がある場合、遺産が多額の場合、不動産の売却がある場合、敵対的な相続人がいる場合、遺産分割協議書の署名捺印をしていいか不安がある場合には、一度弁護士にご相談されることを検討してみてください。そのご相談で特に問題なさそうであれば、わざわざ弁護士を入れる必要はありません。
遺産分割協議、相続税、不動産登記移転、不動産売却など相続全般に精通している当事務所にぜひ一度ご相談ください。