被相続人(亡くなった方)に相続人がいない場合、つまり法定相続人がいない場合には、通常の相続手続きとは異なる特別な処理が必要になります。
これを「相続人不存在」といい、その場合は家庭裁判所の関与のもとで相続財産清算人が選任され、相続財産の管理、処分、弁済等が行われます。
相続財産の行方や、手続きの進め方について解説します。
このページの目次
1. 相続人不存在とは?
相続人不存在とは、被相続人に法定相続人がいないか、すべての相続人が相続放棄した場合を指します。相続人がいないと、遺産の分割や管理ができず、法律に基づいて特別な処理を行う必要があります。
2. 相続人不存在の場合の対応
相続人がいない場合は、次のような流れが想定されます。
2-1. 相続財産清算人の選任
家庭裁判所への申立て
利害関係者(相続人、債権者、利害関係のある第三者など)が、家庭裁判所に対して「相続財産清算人の選任」を申し立てます。家庭裁判所が選任した相続財産清算人が、相続財産を管理・処分する役割を担います。
申立と同時に、一般的に、予納金50万円~100万円程度の納付が求められます。この予納金の弊害により、相続財産清算人の申し立てがなされず、相続財産や債務が放置されるということになります。
相続財産清算人の役割
清算人は被相続人の財産を保全し、債権者への支払いを行い、最終的に財産を国庫に帰属させるための手続きを行います。
2-2. 公告による相続人の捜索
相続人の有無を確認するための公告
相続財産清算人が選任された後、家庭裁判所は官報に公告を出し、「相続人がいる場合は名乗り出てください」と広く呼びかけます。相続人が名乗り出ない場合に手続きが進行します。
2-3. 債権者への弁済
債権者や受遺者への支払い
相続財産清算人は、被相続人の債権者がいる場合、その請求に応じて相続財産から弁済を行います。これにより、被相続人が抱えていた負債が整理されます。
3. 相続財産が国庫に帰属する
相続人が最終的に見つからなかった場合、すべての財産は国庫(国)に帰属します。これは、民法第959条に基づくものです。
3-1. 国庫帰属までの流れ
債務がすべて整理された後
相続財産清算人が債権者への支払いなどの処理を完了した後、残った財産は最終的に国庫に帰属します。これは、遺産が放置されることなく、公共の財産として扱われるための手続きです。
3-2. 公共への貢献
国庫への帰属の意味
相続財産が国庫に帰属することで、公共のために利用されることになります。たとえば、現金は国家予算に加わり、不動産は公共用に転用されることがあります。
4. 相続財産清算人の費用
相続財産清算人の業務には費用がかかりますが、原則、この費用は相続財産から支払われます。費用には、相続財産清算人の報酬や、公告の掲載費用、財産の管理費用などが含まれます。
費用の負担
相続財産から支出
相続財産が十分にある場合は、これらの費用が遺産から支払われます。申立人(通常は債権者や利害関係者)が予納金を納付していても、最終的に負担するわけではありません。
費用が不足する場合
財産が少なく、費用を支払えない場合は、申立人が予納金負担分を最終的に負担する場合があります。そのため、申立てを行う前に相続財産の内容を把握することが重要です。
5. 相続人不存在の場合に注意すべきこと
5-1. 利害関係者の対応
債権者や関係者の行動
債権者や利害関係者は、申立時に必要となる予納金を踏まえ、費用や弁済予定額等を見込んで、相続財産清算人の申立をするメリットがあるか検討する必要があります。
5-2. 相続財産の調査
財産の有無を調査する
相続財産がどの程度あるのかを事前に把握することで、手続きの方向性を決定することができます。負債が多い場合や、財産が少ない場合は、清算人の選任にかかる見込み費用を踏まえ、申立をするか慎重に検討する必要があります。
5-3. 特別縁故者の申立て
特別縁故者への分与
相続人がいない場合でも、被相続人と特別な関係があった人(例えば、療養看護に努めた人など)は、相続財産の一部を受け取れる可能性があります。家庭裁判所に「特別縁故者としての分与」を申し立てることができます。この請求は、相続財産が国庫に帰属する前に行う必要があります。
6. 相続人不存在に関連する法的サポート
相続人不存在の場合の手続きは、先行きを見通すことが非常に重要です。相続財産清算人の申し立てをしたことによってかかる費用、回収できる金額などを見通すことが特に重要です。相続財産清算人の申し立てや、相続財産清算人の経験がある弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
専門家への相談のメリット
手続きの代理
相続財産清算人の選任申立て全般を弁護士に一任できるため、手間が少なくスムーズに手続きを進められます。
法的なアドバイス
相続財産清算人の申し立てをした場合のメリットや費用をできるだけ申立前に予想して、申立をするかどうかを決定できます。相続放棄者としてのスタンスや債権回収の観点から、メリット、デメリットを把握できます。特別縁故者としての請求する場合にも、その方法についてもアドバイスを受けられます。
まとめ
相続人がいない場合の手続きは、相続財産清算人を通じて行われる特別な処理が必要です。
相続財産清算人の選任から国庫帰属までの一連の流れは法律で厳密に規定されていますが、相続財産清算人の申立時の費用や予納金、回収期待度(申立のメリット)などは、相続財産清算人の実務に精通している弁護士でないとわかりません。
相続財産清算人の申し立てを検討していたり、不安がある場合には、ぜひ相続に詳しい弁護士に相談してみてください。
当事務所のサポート
相続人不存在の場合の手続きや、相続財産清算人の選任に関するご相談を承っております。相続財産清算人を何度も経験している弁護士が手続き全般をサポートし、回収可能性などをふまえてアドバイス、手続き代理させていただきます。
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