遺言書がない場合の相続手続きとリスク

遺言書がない場合、相続手続きは法定相続分を前提に行われます。このような状況では、遺産分割協議が必須となり、相続人間でトラブルが発生する可能性が高くなります。以下では、遺言書がない場合の具体的な相続手続きの流れと、考えられるリスクについて説明します。

1. 遺言書がない場合の相続手続き

遺言書が存在しない場合は、遺産分割協議を成立させて、財産を分配する必要があります。具体的な手続きの流れは次のようになります。

1-1. 相続人の確定

戸籍謄本の収集

被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本を出生から死亡までさかのぼって取得し、法定相続人を確定します。相続人が正確に確定されないと、後の遺産分割協議が無効になることがあります。

相続人の範囲

配偶者と子は必ず相続人になります。子がいない場合は、被相続人の親や兄弟姉妹が相続人となります。法定相続分に従って財産が分けられるため、誰がどのくらいの割合で相続するのかを確認します。

1-2. 相続財産の調査

財産目録の作成

被相続人が所有していた財産(不動産、預貯金、株式など)を調査し、一覧表(遺産目録)を作成します。負債(借金、未払いの税金など)も同時に確認し、総資産がプラスかマイナスかを明確にします。

評価額の算定

不動産や未上場株式などの評価をどうするか、相続人で話し合います。評価が難しい場合や合意がとれない場合には、専門家に相談します。評価は遺産分割協議と相続税評価で異なる場合があります。

1-3. 遺産分割協議

相続人全員の合意

遺産分割は、具体的にどの財産を誰が相続するかを全員で合意する必要があります。一人でも反対する場合や話し合いができない場合は、遺産分割協議が成立しません。

遺産分割協議書の作成

協議が成立した場合は、その内容を文書化し、相続人全員が署名・実印を押印します。この協議書は、後の不動産登記や預貯金の手続きに必要です。

1-4. 相続税の申告と納税

相続税の申告

相続税の基礎控除を超えている場合、相続開始から10か月以内に税務署に申告・納税を行います。相続税が発生するかどうかの判断が難しい場合は、税理士に相談することをお勧めします。小規模宅地等特例は申告をしないと使えませんので、ご注意ください。

不動産の名義変更

法務局で不動産の所有権移転登記を行い、相続人名義に変更します。預貯金や株式の名義変更や解約も必要です。

2. 遺言書がない場合のリスク

遺言書がないと遺産分割協議が必須となり、さまざまなリスクが生じることがあります。

2-1. 相続人間の争い

意見の対立

遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要ですが、財産の分け方に関する意見が一致しないことが多いです。特に、不動産の相続や事業の承継が絡む場合、相続人間での争いが激化することがあります。

感情的なトラブル

財産分割の問題が感情的な対立に発展し、家族関係が悪化するケースもあります。相続が原因で親族同士が疎遠になることも少なくありません。

2-2. 財産分割の複雑化

不動産の共有によるトラブル

不動産を複数の相続人で共有する場合、売却や管理の意思決定が難しくなります。共有名義にすると、将来的に売却や賃貸の合意を得るのが困難になり、後日のリスクにつながります。

不動産の維持費負担

共有不動産の固定資産税や維持費の分担について相続人間で意見が分かれることがあり、一部の相続人が負担を拒否するとトラブルが生じます。

2-3. 相続税の負担が重くなる可能性

不動産が多い場合の負担

不動産を相続したものの現金が不足している場合、相続税の支払いに困ることがあります。結果として、不動産を手放すことを余儀なくされることもあります。財産の種類によっては、相続税の負担が非常に大きくなることがあります。

分割が難航して申告期限に間に合わない

相続人間の協議が長引くと、相続税の申告期限(相続開始から10か月)に間に合わない場合があります。その場合、延滞税が発生するリスクもあります。

2-4. 法定相続分による不公平感

法定相続分の不満

法定相続分に従うと、相続人の生活状況や個別の事情が反映されず、不公平感が生じることがあります。たとえば、家族を支えてきた子供と遠方に住んでいた子供が同じ割合で相続することに納得できないと主張される場合です。

代襲相続による複雑化

相続人の一人が既に亡くなっている場合、その子供(代襲相続人)が相続権を持ちます。これにより、相続人の数が増えて協議が複雑化し、関係が薄い相続人同士での合意形成が難しくなることがあります。

3. 遺言書がない場合のトラブル防止策

遺言書がない場合でも、以下のような方法でトラブルを防ぐことが可能です。

3-1. 家族間の事前の話し合い

生前に話し合いを行う

被相続人が生きているうちに、できれば財産分割について家族で話し合っておくことが有効です。相続人全員が同じ遺産分割協議のイメージを共有しておくと、後々のトラブルを軽減することが期待されます。

希望を事前に確認

特定の不動産を相続したい人がいる場合や、特定の財産に思い入れがある場合は、その希望を生前に把握しておくことで、その時点でどのような選択肢がありうるか、生前に対策ができないかどを検討します。

3-2. 共有名義を避ける

不動産は単独相続を検討

不動産を共有名義にするとトラブルが生じやすいため、できるだけ単独相続をするか、売却して現金で分配する方法を検討します。単独相続にする場合は、他の相続人に代償金を支払うことで公平性を保つことが可能です。

換価分割の検討

不動産を売却して現金化し、その現金を分配する「換価分割」を行えば、相続人間の争いを減らすことができます。条件面(売却代金目安、時期、費用の見込など)を相続人間で合意形成しておく必要があります。

3-3. 専門家のアドバイスを受ける

弁護士への相談

相続人間で意見がまとまらない場合は、弁護士に相談することで法的な観点から解決策を提案してもらうことができます。家族同士でまとまらなかったが、弁護士から法的な話をしてもらったら、すぐにまとまったということもあります。無理に自分で抱え込まず、まずは専門家からのアドバイスを受けましょう。

税理士のサポート

相続税の計算や申告を税理士に依頼することで、相続税の負担を最小限に抑えるためのアドバイスを受けられます。また、不動産や未上場株式の評価は難しいですので、これらの財産があるときは、専門家に依頼することを検討していいでしょう。

まとめ

遺言書がない場合、法定相続分を前提に相続手続きを進めることになりますが、遺産分割協議で相続人間でトラブルが発生しやすくなります。遺産分割協議がまとまらないと、不動産の共有状態の長期化(による費用・収益の未確定状態)、親族間の関係悪化、相続税の滞納など多くのリスクがあるため、できれば生前の被相続人が元気なうちに話し合いを行い、相続計画を立てておきたいものです。

遺産分割協議に行き詰まったら、独りで抱え込まず、まずは弁護士に意見を求めましょう。無料相談などもあります。相談するだけでも、思いがけない解決方法が聞けたりすることもあります。なにより、代理交渉を依頼した場合には、精神的負担が軽減することが期待されます。

当事務所のサポート

当事務所では、遺言書の作成支援や遺産分割協議の代理交渉、相続税申告・納税、不動産の換価、代償金の算定など相続全般のご相談、ご依頼をしていただけます。遺言書がない場合でも、遺産分割協議を円滑に進めるためのアドバイスや法的支援をご提供しますので、お気軽にご相談ください。相続の経験豊富な弁護士が対応いたします。

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