
遺言書や生前対策は、相続に関するトラブルを最小限に抑え、スムーズに財産を受け継ぐために有効な手段です。もっとも、かえって問題を引き起こしてしまった、税金のことを考えていなかった…など、マイナスに働くこともあります。
被相続人や推定相続人が適切にメリット、デメリットを理解する必要があります。ここでは、遺言書の種類や作成のポイント、生前対策として活用できる方法について解説します。
このページの目次
1. 遺言書について
遺言書は、被相続人の意思を法的に確実に伝えるための文書です。遺言書を作成することで、相続人間の争いを避け、被相続人の思いを分割に表現することができます。
1-1. 遺言書の種類
1. 自筆証書遺言
- 特徴:遺言者が遺言の全文、日付、署名を自ら書き、押印する形式です。比較的簡単に作成できる一方で、法的な不備があると無効になることがあります。
- 保管方法:2020年から法務局での保管制度が導入され、これを利用することで、紛失や改ざんのリスクを減らすことが可能です。自宅に保管する場合には、家族に知らせておかないと気付かれないことがあります。
- メリット:費用がかからず、手軽に作成できます。
- デメリット:法的要件を満たさない場合は無効になる恐れがあり、偽造や紛失のリスクもあります。また、第三者の立会いがないため、遺言能力が争われることもあります。
2. 公正証書遺言
- 特徴:公証役場において作成する遺言書です。公証人が関与するため、法的に有効で信頼性が高く、紛失や改ざんのリスクはほぼないです。
- 作成手続き:遺言者が公証役場に出向き、2人の証人が立ち会います。内容を公証人に伝え、公証人が遺言書を作成します。
- メリット:形式的有効性が保証される。検認も不要なので遺言の執行がスムーズに行われます。
- デメリット:作成費用がかかり、原則公証役場に行く必要があります。もっとも、検認手続きが不要なので、これを考慮するとデメリットにはならないと考えることもできます。
3. 秘密証書遺言
- 特徴:内容を秘密にしたまま、封印して公証人に証明してもらう形式です。ただし、あまり利用されていません。
- メリット:遺言の内容を秘密にできます。
- デメリット:法的な不備があると無効になることがあり、公証人は内容を確認しないため、後に問題が生じる可能性があります。また、結局、検認が必要です。
1-2. 遺言書の作成時のポイント
法定相続人と遺留分を考慮する
遺言書の内容は、法定相続人の遺留分を考慮して作成する必要があります。遺留分を侵害する内容でも有効ですが、後に遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。
財産の明確な記載
遺産分割を円滑にするために、不動産の所在地や預貯金の口座情報など、財産を具体的に記載します。一方で、預貯金口座の変動が予想される場合は、その他の預貯金口座を含む一切の預貯金などと記載して、変動に耐えうるものにします。
遺言執行者の指定
遺言の内容を確実に実行するために、「遺言執行者」を指定しておくこともあります。相続人が相続手続きなどに不慣れな場合などは、弁護士や信頼できる親族を遺言執行者に指名することで、手続きがスムーズになります。
2. 生前対策について
生前対策とは、相続に備えて生前に財産整理や相続方法を計画することです。これにより、相続税の負担を軽減し、トラブルを防ぐことが可能です。
2-1. 生前贈与
1. 暦年贈与
- 特徴:毎年110万円までの贈与は、贈与税が非課税となる制度です。相続人に対して毎年少しずつ贈与することで、相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できます。
- 注意点:贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確にしておくことをおすすめします。
2. 相続時精算課税制度
- 特徴:相続時に贈与分を相続財産に加算して相続税を計算するものです。利用するには要件を満たす必要があります。
- メリット:大きな財産を一度に贈与できます。
- デメリット:制度を利用すると暦年課税が適用されなくなるため、慎重に検討する必要があります。
2-2. 不動産の生前贈与
不動産を生前に贈与する
不動産を相続人に生前に贈与することで、相続税の負担を軽減できることがあります。ただし、不動産の贈与には、贈与税、登録免許税、不動産取得税がかかる可能性があるため、総合的な費用を考慮することが重要です。
共有名義にする場合の注意
不動産を共有名義にすると、将来の管理や売却が難しくなることがあります。贈与の際には、贈与後の管理方法についても十分に考えておくことが大切です。
3. 生前対策のメリットと注意点
3-1. 生前対策のメリット
相続税の節税
生前に財産を分配することで、贈与税、相続税の基礎控除を効果的に利用でき、全体の税負担を軽減することが可能です。
トラブル防止
事前に財産の分配を決めておくことで、相続人間の争いを防ぎ、スムーズな相続手続きを実現できます。
財産管理の意向を反映できる
生前に財産をどのように管理・活用してほしいかを具体的に示すことで、自分の意思がしっかりしている段階で希望の相続が実現できます。
3-2. 生前対策の注意点
贈与税の負担
生前贈与には贈与税がかかる場合があるため、計画的に贈与を行う必要があります。相続税などに詳しい専門家に相談し、最適な贈与方法を検討しましょう。
家族との話し合い
生前対策を行う前に、家族としっかり話し合い、全員の理解を得ることが大切です。対策が不十分だと、かえってトラブルを招くことがあります。
二次相続を見据える
配偶者に多くの財産を渡すと、配偶者が亡くなった際の二次相続で大きな税負担が発生することがあります。二次相続も考慮した対策を取ることが重要です。
4. 生前対策としての家族信託
4-1. 家族信託とは
- 特徴:信頼できる家族に財産管理を託す制度です。たとえば、高齢の親が子供に財産管理を任せることで、認知症などで判断能力が低下した場合でも、財産が適切に管理されます。
- メリット:相続開始後の財産分配をスムーズにすることができ、資産凍結を防ぐことが可能です。また、遺言書ではできない柔軟な財産管理が可能です。
4-2. 家族信託の活用場面
認知症対策
高齢者が認知症になった場合、銀行口座や不動産が凍結されることがあります。家族信託を活用することで、財産管理が継続的に行えます。
複雑な財産管理
不動産の賃貸経営や事業承継が必要な場合も、家族信託を利用することで、より円滑な管理が可能です。
まとめ
遺言書や生前対策は、相続をスムーズに進め、相続人間のトラブルを未然に防ぐための重要な手段です。遺言書は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、それぞれのメリット・デメリットを理解して、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
また、生前贈与や家族信託などの生前対策を活用することで、相続税の負担軽減や財産管理の効率化が図れます。家族の将来を考えた対策を講じるために、専門家のアドバイスを受けながら計画的に進めていくことをおすすめします。
当事務所のサポート
当事務所では、遺言書の作成支援、将来相続争いにならないようにする生前対策、相続税対策としての贈与・家族信託などのご相談を承っております。
不確かな知識、経験で遺言書作成や生前対策をすると、かえって遺産分割協議でもめたり、税務調査が入ることがあります。相続の経験豊富な弁護士に是非ともご相談ください。