遺言執行者は、遺言者が遺言書に記載した内容を実現するために必要な手続きを行う人物のことです。遺言執行者がいることで、遺言が実行され、相続手続きがスムーズに進むことが期待されます。
遺言執行者をどのように選ぶのか、またその役割について理解しておくことは、遺言書を作成する際に検討要素となります。
このページの目次
1. 遺言執行者の役割
遺言執行者には、遺言内容を実行するための法的な権限が与えられており、以下のような具体的な役割を担います。
1-1. 遺産分割の実行
遺産の管理・分割
遺産目録を作成して、各相続人に割り当てられた財産を引き渡す役割を担います。不動産の名義変更や預貯金の解約・分配なども遺言執行者の業務です。
相続人間の調整
相続人間で意見が分かれてしまって遺産を分割できないということを回避して、遺言執行者が遺言の内容に従って手続きを進めることで、相続手続きの停滞を防ぐことができます。
1-2. 財産の名義変更や手続き
不動産の登記変更
遺言執行者は、相続した不動産の名義変更手続きを行います。これは、法務局への所有権移転登記申請を指します。
金融機関での手続き
遺言執行者は、銀行口座の解約や相続人への預金の分配など、金融機関とのやり取りも担当します。
1-3. 特定の財産の処理
遺贈の実行
遺言書に遺贈(相続人以外の人に財産を与えること)が記載されている場合、その財産を指定された受遺者に引き渡すのも遺言執行者の役割です。
債務や費用の支払い
遺言の内容によっては、被相続人の借金や未払金がある場合、遺言執行者は遺産の中からこれらの債務を支払ったり、必要な費用を支払ったりします。
1-4. 特定の遺言内容の実行
相続廃除の手続き
遺言に相続人を廃除する旨が記載されている場合は、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除の申し立てを行います。
未成年後見人の選任
遺言で未成年後見人を指定している場合、その選任の手続きも遺言執行者が行います。
2. 遺言執行者の選任方法
遺言執行者を選任する際には、遺言書に具体的にその人を指名する必要があります。適切な遺言執行者を選ぶことは、遺言内容を確実に実行するために非常に重要です。
2-1. 選任の方法
遺言書に明記する
遺言執行者を指定する場合は、「遺言執行者として〇〇を指名する」と遺言書に記載します。この際、氏名や住所を明確に記載することが望ましいです。指定がなければ、相続人や利害関係者が家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任してもらうことになります。
複数の執行者を選任する
複数の遺言執行者を指名することも可能です。たとえば、異なる財産ごとに異なる執行者を指定することで、財産管理がより専門的に行われることがあります。ただし、複数の執行者がいる場合、調整が必要になることもあるため注意が必要です。
3. 遺言執行者にふさわしい人とは?
遺言執行者には、高い信頼性と法律や財産管理に関する知識が求められます。遺言執行者として適している人物を選ぶ際のポイントは以下の通りです。
3-1. 信頼できる家族や親族
親族が執行者になる場合
遺言執行者に信頼できる家族や親族を指名することはよくあります。しかし、遺言の内容が複雑な場合や、相続人間に争いが予想される場合には、親族が執行者になることでトラブルが発生することもあります。
親族に依頼するメリット
家族事情に詳しく、被相続人の意思を尊重して手続きを進められるというメリットがあります。
3-2. 弁護士などの専門家
弁護士を選任する
遺産分割が複雑な場合や、親族間に争いが予想される場合は、第三者である弁護士を遺言執行者として指名することが効果的です。弁護士は、専門的知識を有しており、法律に基づいて公平に手続きを進めることができるため、相続人間のトラブルを防ぎやすいです。
専門家の選任のメリット
財産の管理や法律に詳しいため、適切に遺産目録が作成され、遺言の執行がスムーズに進むことが期待できます。また、疑問点などに対しても、適切に法的な回答が期待できます。
4. 遺言執行者の注意点と義務
遺言執行者には、遺言の内容を実行するための責任と義務があります。選任された遺言執行者は、その役割を正しく理解しておくことが必要です。
4-1. 忠実義務と説明義務
忠実義務
遺言執行者は、遺言者の意思を尊重し、忠実に遺言の内容を実行する義務があります。これは相続人や受遺者の利益を守るための基本的な義務です。
説明義務
遺言執行者は、相続人に対して遺産分割の進捗や財産の状況について適切に説明する義務があります。遺産の分配が完了するまで、相続人に対して透明性を保つことが求められます。
4-2. 費用と報酬
遺言執行者の報酬
遺言執行者が弁護士や専門家の場合、遺言執行の報酬が発生します。報酬の金額は遺言書に記載することもできますし、特に定めがない場合は家庭裁判所が適切な報酬を決定します。親族が執行者を務める場合は、報酬が発生しないこともありますが、場合によっては経費の実費精算が求められます。
5. 遺言執行者を選任する際の注意点
遺言執行者の選任は遺言の執行に大きな影響を与えるため、慎重に行う必要があります。
5-1. 相続人間のトラブルを考慮する
中立性を確保
相続人間にトラブルが生じることが予想される場合は、感情的な対立を避けるために、弁護士などの中立的な第三者を遺言執行者にすることを検討します。
公平な執行が重要
特定の相続人に偏った行動をとると、遺言執行者としての責任を果たせなくなるため、執行者は公平な対応を心がける必要があります。
5-2. 遺言内容の複雑さを考慮する
財産の種類や規模を確認
遺産が不動産や事業の運営など複雑な内容を含む場合は、専門知識が必要です。財産が多岐にわたる場合や、分割が複雑な場合は、財産管理に詳しい専門家を選ぶことを勧めます。
6. 遺言執行者の辞任と解任
遺言執行者が辞任したり、解任されたりすることもあります。選任後の対応についても知っておくことが大切です。
6-1. 遺言執行者の辞任
辞任の手続き
遺言執行者が辞任する場合は、家庭裁判所に辞任の申し立てを行います。正当な理由がないと辞任できません。
6-2. 遺言執行者の解任
解任の理由
遺言執行者が不適切な行動を取った場合(例:遺産の管理を怠る、不正行為をするなど)、相続人が家庭裁判所に申し立てをして解任を求めることができます。解任が認められると、新しい遺言執行者が選任されます。
まとめ
遺言執行者は、遺言内容を実行する役割を果たします。遺言者が信頼できる人物を選任することが、遺産分割のトラブルを防ぎ、スムーズな相続手続きを実現するために必要です。弁護士や専門家を遺言執行者に指名することで、より確実に遺言の内容が実行されることが担保されます。
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